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4. 海外投資は“レジスタンス”である

海外投資は“レジスタンス”である

テレビをつけると、政治家や政治評論家や政治学者やコメンテーターやジャーナリストや何だかわからない人たちが「日本を変えなければいけない」と叫んでいます。もちろん、今の日本社会には大きな矛盾がありますし、それを改革していかない以上、この国に未来はないことは誰の目にも明らかです。

しかし、いったいどのようにすれば、日本を変えられるのでしょうか?

今ある社会システムを変革するということは、これまで得ていた既得権を手放すということです。

では、“平成維新”を叫ぶ政治家は、参議院の廃止や議員定数の大幅削減を含む政治機構の改革を推進できるでしょうか?「小さな政府」を力説する政治学者や経済学者は、徹底した実力主義に基づく大学改革を受け入れることができるでしょうか?

日々の新聞紙面で「規制撤廃」や「競争原理」を国民に説く日本経済新聞は、その裏では、流通段階での値引きを認めない「再販制」なる既得権を守るために、「規制緩和絶対反対」で狂奔しています。この再販制で守られているために新聞業界は長らく市場競争を免れ、そのお陰で弱者の味方であるはずの新聞記者は、この不況下に20代でも年収1,000万円近い安定した高収入を得ています。そのうえこの人たちは、こうした事実に口をぬぐって知らんぷりを決め込み、金融機関の高給与を批判してみたり、ドヤ街や町工場を取材して「リストラされた貧乏人はかわいそう」という記事を書くのですから、その欺瞞性にはちょっと常識を超えたものがあります。

新聞と同じく、出版業界もこの再販制によって守られています。週刊誌や経済誌も政府・行政や金融機関をバッシングして「規制緩和」を説きますが、自分自身が規制によって守られていることは、絶対に触れません。なぜなら「出版業界にも規制緩和が必要だ」などと言おうものなら、「出版村」から追放されてしまうからです。

政治家の討論番組からワイドショーまで、最近はテレビでも「規制緩和」は花盛りですが、テレビこそが最大の規制産業であることは、ここでも不問に付されています。放送局は総務省(旧郵政省)の許認可業種なので、お上に擦り寄ってさえいれば、市場競争から完全に切り離された「村の平和」をいつまでもむさぼることができるからです。このテレビ業界も、新聞業界と並んで高給与ですが、スポンサーの反発を恐れて、対外的にはずいぶん割引いた数字を公表しています。

ここで挙げたのはほんの一例ですが、要するに、一度手にした既得権は誰も手放したくはないわけです。もちろんこれは人間の本性ですから、そのこと自体を批判するつもりはありません。たまたま既得権にありつけた人を、外野から妬んだりひがんだりするつもりもありせん。ただ許し難いと思うのは、自分自身が既得権に守られていながら、そのことを隠して「正論」をぶったり、弱者の味方を装ったりする人たちです。

現在のマスコミの論調は、そのほとんどがこうした欺瞞的既得権者によってつくられています。これが、日本がよくならない最大の元凶なのですが、こういう意見はマスコミには絶対に載らないので、日の目を見ることもありません。

ところで、「日本を変えよう」と叫ぶ人たちは、口々に選挙の大切さを力説します。この人たちは要するに、有権者が無知で無能だからマトモな政治家が育たないと考えていて、自分たちが有権者を「啓蒙」すれば、日本の政治は変わるはずだと信じているわけです。余計なお世話とはこのことです。

彼らが指摘するように、日本の経済危機が構造的なものだとすれば、それを根本から改革するためには、これまで戦後日本社会で大きな既得権を得ていた人たちに、それをあきらめさせなければなりません。具体的には農業従事者や農協であり、土建業者であり、自営業者であり、官僚をはじめとする公務員であり、日教組や労働組合であり、郵便局職員です。要するに、これまでの政党選挙を支えていた基盤をすべて敵に回さなければ、「改革」はできないということです。

ところが、日本のような民主主義国家では、政治は選挙によって選ばれた政治家によって行なわれます。つまり、既得権を打ち壊して真に「改革」を唱える政治家は絶対に選挙に当選しないから、国家を支えるの社会制度や経済構造が、そう簡単には変わるはずはありません。子どもにだってわかる理屈です。

では、どういう時に経済構造は根本的に変わるのでしょうか。それはとても簡単で、革命か、戦争しかありません。こんなことは、マルクスやレーニンが 100年も前に言っています。「民主的な改革」なんて、自己矛盾でしかないのです。ところがこんな当たり前のことを、この国では誰もはっきりとは言いません(日本という国は、アメリカの「外圧」がなければなにひとつ変わりません。そのことは、この国の戦後史を調べてみれば一目瞭然です)。政治に期待していても、いつまでたっても「改革」はできないということです。

*この原稿のオリジナルは、3年前の1998年8月(橋本内閣)に執筆された。その後、小渕・森内閣を経て、小泉“改革”内閣が発足した。しかしここで進められている“改革”は、既得権を持つ側が社会の多数派ではなくなった(既得権の正当性を失った)ものが大半なので、「民主主義は政治的多数派の既得権を奪えない」というテーゼに対する有効な反証になるかどうかは疑問。そのため、オリジナルのまま残すことにした。(2001/8/15)

そこで私たちは、

海外投資はレジスタンスである

と主張してみたいと思います。私たちが海外になけなしの資産を移すことは、日本の税制や金融機関、ひいては日本という国家システム全体に対する「抵抗」だと、考えてみたいのです。

ジョン・レノンではありませんが、日本人みんなが、自由にタックスヘイヴンの金融機関で資産を運用できる日が来ることを想像(イマジン)してみましょう。

そうなれば、手数料が高くて効率の悪い日本の金融機関を利用する人は誰もいなくなってしまいますから、顧客の無知につけこんでわけのわからない商品を売りつけるような証券会社や、大した仕事もしていない行員に高給を払っている銀行や、何ひとつ金融知識がないのに銀行のフリをしている農協系金融機関や、旧態依然の商品をおばさんの営業力だけで売っている生命保険会社などはすべて淘汰されるに違いありません。

次に、民間の金融機関よりもちょっとだけ有利に仕組まれている郵便貯金や簡易保険などの国営金融機関にお金を預ける人もいなくなります。これらは財政投融資(財投)の原資として特殊法人にばらまかれ、あちこちに巨額の赤字をつくっているわけですが、この原資がなくなれば、官僚の天下り用につくられた特殊法人の大半が消滅し、政治家の都合で橋や新幹線を建設することもできなくなります。

さらに、タックスヘイヴンで運用される資産は課税困難ですから、日本の税制に甚大な影響を及ぼします。日本では、サラリーマンは100%所得を補捉されて税金を給料から勝手に引かれるのに、自営業者や農業従事者の多くが税金を納めず、学校法人や宗教法人は、莫大な収益を上げながらもほとんど課税されないという恐るべき不公平が当たり前になっています。こうした不平等を温存させる大きな原因のひとつが税の「源泉徴収」なのですが、海外投資によって利子や配当、売却益への源泉徴収が不可能になると、これまでの税制に対する抜本的な改革を促すきっかけになります。

金太郎飴のような政党に投票しても、日本のシステムは何も変わりはしません。それよりも、私たち一人ひとりが海外で資産運用するようになるほうが、「改革」のためにははるかに効果 的です。そのうえ、投資には実利も付いてきますから、一石二鳥とはこのことです。

もちろん私たちだって、最初からこんなことを考えていたわけではありませんでした。「もっといいお金儲けの方法はないか」という金銭欲と、私たちのような貧乏人がタックスヘイヴンに口座をつくれるなんて面 白そうだという好奇心から始めてみたことで、高邁な理想なんて爪のアカほどもありませんでした。

しかし、日本の銀行や証券会社の「ゴミ投資家」に対する手数料の高さ、サービスの悪さや、この国の税制の理不尽さに打ちのめされるうちに、少しずつですが、「私たちのような“ゴミ”にとっては、日本の銀行や証券会社より、海外の優れた金融システムを利用したほうがずっと希望があるんじゃないか」と思うようになりました。そうした考えに至るまでの経緯を“天国(タックスヘイヴン)への旅”になぞらえて描いてみたのが、『ゴミ投資家のためのビッグバン入門』です。

その後、このシリーズを制作するために海外投資について調査を重ね、実際にタックスヘイヴンを利用してみるうちに、私たちの考えはもう少し変化しました。それが、「海外投資はレジスタンスである」ということです。

もちろん、「抵抗」だけして玉砕してしまったのでは何の意味もありません。有効なレジスタンスのためには、一人ひとりが自立した資産運用主体、つまり「投資家」になる必要があります。

その意味でも「海外投資」は、私たちのような素人が「投資家」になるための、貴重なレッスンの場を提供してくれるのではないでしょうか。

私たちの試みが、みなさまの“天国への旅”のよりより水先案内人になれることを、心より望んでいます。

『ゴミ投資家のための税金天国入門』Plologue「『ゴミ投資家』の思想」を一部改稿
1998年8月25日


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