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「脱税のツケ」米富裕層の憂うつ オリジナル版 1/2

Akira Tachibana Archives

日経ヴェリタス

「脱税のツケ」米富裕層の憂うつ (橘玲)
  ──UBS、顧客リスト提出で米政府と和解 オリジナル版

『日経ヴェリタス』2009年8月30日号に掲載されたもののオリジナル全文を掲載します。(09/09/8)




最初の“犠牲者”はフロリダの会計士だった。億万長者相手に豪華ヨットを建造・販売する事業で富を得たマイケル・ルービンシュタインは、スイスのプライベートバンクにオフショア籍の法人名義で秘密口座を保有し、700万ドルの未申告の収益を不正に米国内に還流させ、不動産を購入し豪邸を手に入れた。09年4月、ルービンシュタンは脱税容疑で逮捕・起訴され、2ヶ月の収監の後、有罪を認め1200万ドルの保釈金を支払ってようやくつかの間の自由を取り戻した。

2月18日、プライベートバンク大手UBSは、富裕な米国人顧客の脱税を幇助していたことを認め、総額7億8000万ドルの罰金を支払うとともに、285人の顧客名簿を米司法当局に提出した。ルービンシュタインは、この名簿による逮捕者の第一号だった。8月14日、司法当局がさらに150件の訴訟を準備していることが報じられた。

司法当局、150件の訴訟準備

UBSに口座を保有していた米国人は、“地獄のポーカー”とでもいうべき不条理に引きずり込まれてしまった。

08年5月、元プライベートバンカーが脱税幇助の容疑で逮捕され、司法取引で違法行為の数々を証言してから、UBSは米司法当局の執拗な追及に晒されてきた。スイスの銀行秘密法は、金融機関に対し、第三者に顧客情報を提供することを禁じている。米当局はUBSに5万2000件の米国人顧客全員の情報開示を求めたが、これに応じればスイスで刑事罰を課されるため、事件は米国とスイスの外交問題に発展した。国務省やホワイトハウスを巻き込んだ紆余曲折の神経戦を経て、8月12日、UBSが4400件あまりの顧客情報を追加提出することでこの問題はようやく和解に至った。

それとは別に米国の内国歳入庁(IRS)は、9月23日を期限として、納税者に対し海外の口座を自主的に申告するよう求めていた。

米国の税法では、海外の金融機関に1万ドル以上の資産を保有する場合、IRSへの報告が義務づけられている。もっともこの規則は、UBS事件前は納税者にはほとんど知られていなかった。税務当局はこの半ば死文化した条項が、金鉱を掘り出す強力な道具になることに気づいた。

UBSの顧客の前には、シンプルな2つの選択肢が用意されている。自主的に口座を申告するか、あるいはそのまま隠し通すか――。これは悪魔の仕掛けたゲームだ。

 

それでは、ゲームのルールを説明しよう。

UBSに口座を開く際の最低預金額は300万ドルだから、プレーヤーであるあなたは3億円を預けていることになる。  意図的に脱税を工作したわけではなく、たんに利益を申告しなかっただけのあなたは、この海外口座を税務当局に報告することにした。

IRSは自主申告の軽減措置を認めているが、それでも過去6年間の口座の最高残高に対し5〜20%の罰金が課される。これに州税を含む追徴課税や延滞税を加えると、IRS自身の試算で、支払総額は口座残高の約40%になる。すなわち、あなたは1億2000万円を失う。

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