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年金激減に備える投資法 2/2 「文藝春秋」2010年2月号掲載 |
資産運用は外貨建てで「円高とデフレなのだから、資産は円で持つのがいちばんいい」というひとがいる。たしかに通貨の価値がずっと高いままなら、輪転機を回して1万円札を刷るだけで日本人は働かずに生きていけるようになる。これは素晴らしい未来だが、この「予言」に人生を賭けようとは思うひとはそう多くないだろう。 そうすると考えるべきは、手元の資産を使って、年金資産のリスクをどのようにヘッジするかだ。このことからただちに、次のようなシンプルな結論が導き出せる。 資産運用は外貨建てで行なうべきだ。 あなたの資産の大半は、日本国によって円建てで(国債や日本株に)投資されている。だったらこれ以上、同じような資産を増やしてもなんの意味もない。これが、分散投資の基本だ。みんなの大好きな不動産・日本株・預貯金の三点セットは、最悪の選択なのだ。 そんなバカな、とお思いだろう。円高で外貨投資は損したじゃないか、と怒り出すひともいるかもしれない。でもリスクヘッジとは、そういうものだ。 日本人の資産は、人的資本も金融資本も否応なく円というローカル通貨にしばりつけられている。それに比べて外貨投資の比率など微々たるものだから、円高になれば資産全体の価値は大きくなる。対処すべき最大のリスクは、円が価値を失うことだ。 きわめて簡単な国際分散投資ETF(上場投資信託)は証券市場に上場されているインデックスファンドで、日本やアメリカだけでなく、世界のさまざまな株価指数に連動したものがある。一九九〇年代にこの新商品が登場したことで、資産運用は根本的に変わった。いまではETFを利用して、素人でもプロのファンドマネージャーや機関投資家並みの国際分散投資が可能になった。 残念ながら日本の証券市場には、わずかな種類のETFしか上場されていない。使いこなすにはアメリカ市場を利用するしかないが、いまではオンライン証券会社で主要な米ドル建てETFが購入できるようになった。これなら投資に不慣れなひとでも、気軽に取引できるだろう。 中国など新興国を含む世界株インデックスは、ACWI(オール・カントリー・ワールドインデックス)とVT(ヴァンガード・トータル・ワールド・ストック)が知られていて、どちらも日本のオンライン証券会社が扱っている。この全世界ポートフォリオをなにも考えずに買うが、理論上、もっとも正しい資産運用法だ。 ふたたび、そんなバカな、とお思いだろう。だが以下のふたつの条件を認めるならば、その正しさは議論の余地がない。
もちろんこの場合、国や地域ごとに栄枯盛衰があるから、どこに投資すればいいかの判断は難しい。だが世界市場全体に投資するのなら、アメリカが没落しようが、中国株が政治リスクで下落しようが、どこか(インドや中南米やアフリカ)が牽引してETFの株価は上がる。驚くべきことに、この資産運用法では、投資対象を考える必要すらないのだ。 なぜこんな便利な方法を誰も教えてはくれないのか? その理由は、みんながETFで資産運用すると金融機関が儲からないからだ――信じる信じないはあなたの勝手だが。 橘玲 『月刊文藝春秋』2010年2月号 |
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