Money Laundering
by TACHIBANA Akira
TOUR in HONG KONG
16.下町の雑居ビル
チャンの家は、秋生と同じ雑居ビルのアパートだった。
ホテルの前からタクシーを拾うと、三〇分もかからずに着いた。もういちど電話してみた。やはり誰も出ない。
玄関のドアはロックされていたが、五分ほど待っていると、買物にでも行くのだろう、五歳くらいの女の子を連れた主婦が出てきた。
入れ違いに、アパートに入った。
チャンの部屋は、五階の端だった。
古いエレベータを降りると、日の当たらない廊下側は電灯も暗く、ところどころ蛍光灯も切れかかっている。
どこからか、テレビの音がする。
インターホンを押したが、壊れているのか、何の反応もない。
ドアをノックした。やはり返事はない。しばらく待って、もういちどノックした。
ノブに手をかけると、鍵はかかっていない。
チャンの名前を呼びながらドアを開ける。
窓にはカーテンが閉められ、部屋は薄暗かった。
玄関には、靴がきれいにそろえて置かれていた。
靴箱の上には、幸運を呼ぶという翡翠の置物が飾られている。
どこか、生臭いにおいがした。
下町の雑居ビル