Money Laundering
by TACHIBANA Akira
TOUR in HONG KONG
10.グランド・ハイアット
男が指定してきたのは、香港コンベンション&エキシビション・センターに隣接したグランド・ハイヤット・ホテルの地下にあるシャンパン・バーだった。
1989年にオープンした香港でも五指に入る豪華ホテルのメインバーで、「古き良き巴里」をイメージした黒とゴールドの退廃的なインテリアと、香港一というシャンパンのコレクションが売りだ。
隣はアダルト・ディスコのジェイ・ジェイズで、週末の深夜になると思い切りめかし込んだカップルたちがどこからともなく集まってくる。
グランド・ハイヤットと聞いて、いつものTシャツにスニーカーという格好ではなく、ブランドもののカジュアル・スーツと革靴を選んだ。
ラフな格好では、入店を断られることを知っていたからだ。
メイが気に入っていたバーで、以前は二人でよくでかけたものだ。
その後で、もっとほかに考えることがあるだろうと苦笑した。
家の前でタクシーをつかまえると、十分ほどでホテルの正面玄関に着いた。
天井の高い豪華なロビーには無造作に応接セットが置かれているだけで、ほかには何もない。
振返ると、手前側に大胆なアーチ型の中二階があり、そこからティールームがロビーの上に迫り出している。秋生が知る限りでは、もっとも斬新なデザインのひとつだ。
地下鉄の駅から少し離れているため、観光客はここまで足を延ばさない。
温泉観光ホテルに成り果てたペニンシュラとはずいぶん雰囲気が違う。
グランドハイアットの中2階からロビーを眺める
ワンチャイのコンベンション・センター。その右がグランド・ハイアット