Money Laundering
by TACHIBANA Akira
TOUR in HONG KONG
6.リッツカールトン・ホテル
セントラルの東、チャーター・ガーデンと向かい合ったリッツ・カールトンのティールームで、女を待っていた。午後3時。今日も暑い。
馬鹿でかいホテルが多い香港島の中で、香港のリッツ・カールトンは都会の隠れ家といった風情の瀟洒なホテルで、客の大半は常連だ。
女とは、いちどもメールのやり取りはしていない。
マコトからの強い依頼で、セッティングもすべて彼がやっていた。
相談内容は、香港かオフショアに法人を設立し、法人名義の銀行口座を開きたい、というものだった。詳しい話は知らない。
どうせ脱税の道具に使うつもりだろうが、そんなことをメールに残す奴はいないから、事前の情報などまったく当てにならない。
「ゴージャス。超美人。期待してください」
マコトのメールにはそうあった。
だったらわざわざ待合わせの目印を決める必要もないだろうと、平日の午後は閑散としているこのティールームを指定したのだ。
奥の席に、どうみても不倫にしか見えない白人男性と東洋人女性のカップルが一組。
イギリス風のアフタヌーン・ティーの豪華なセットに小さな歓声をあげる日本人観光客のグループ。
アタシュケースを開け、書類を手に商談をする男たちがちらほら。
ウェッジウッドの陶器。エミール・ガレの花瓶。植民地時代を思わせるアンティークな調度品。外の喧騒とは別世界だ。
リッツカールトンのスイートルーム